昨日の深夜、眠れずに朝井リョウさんの『正欲』を読んでいたのですが、そこで珍しい項省略(Argument Ellipsis)を見つけました。
ひょっとしたら、何かの折に今後の研究に役立つかもしれないと思ったため、自分のための備忘録を兼ねて残しておこうと思います。
『正欲』は、稲垣吾郎さんと新垣結衣さん出演で映画化もされています。
映画の方はまだ見ていませんし、もともと小説自体もすごく読んでみたいと思っていたわけではありませんが、先日電車で長距離移動する機会があり、そのときに暇つぶしに駅のコンビニで買ったものでした。
電車の乗車時間だけでは読み切れず、積ん読になりつつあったわけですが、昨夜、目が覚めてしまったため、久々に読み進めていました。
見つけた項省略
今回見つけた項省略は、下記のものです。
この音源を使用している、どんなリクエストにも応えがちな小学生二人組。
朝井リョウ『正欲』、pp.183-184、新潮文庫
のコメント欄に必ず現れる、SATORU FUJIWARAという名前。
から連想される、“藤原悟容疑者”が起こした事件。
の記事にあった、「水を出しっぱなしにするのがうれしかった」という供述。
が報道された次の日、誰もいない校舎の裏の水飲み場で鉢合わせた佐々木佳道。
が勤務先のホームページで語っていた、そこに就職した理由。
そして自分が、今の寝具店に転職した理由。
ある音楽を聴いたことで、主人公が小学生YoutuberのYoutube動画のコメント欄のコメントについて思い出し、そこから学生時代のことなどを次々と思い出していくという文脈です。
他にも、次のようなものがあります。
男の人。
浅井リョウ『正欲』、p.212、新潮文庫
の目線が、この空間にはたくさん行き交っている。
ここは、男性嫌いの主人公が、立食パーティーに多くの男性がいることに対して嫌悪感を示している文脈です。
この項省略の特徴
この項省略の特徴は、まず、いずれも主語が省略されていることです。
そして、省略の先行詞は前の文の一番最後の要素であることです。
先行詞が前の文の一番最後の要素ではない場合は、非文法的となります。
…どんなリクエストにも応えがちな小学生二人組を思い出した。
のコメント欄必ず現れる、SATORU FUJIWARAという名前。
ここでは「小学生二人組」の後に「を思い出した」を付け加えましたが、こうすると次の文で項省略が許されません。
このように、この種の主語の省略は極めて限られた環境にしか生起できないようです。
この現象についてすでに研究がされているのかどうかは調べていないためわかりませんが、今後研究していっても面白そうです。
最後にもう一言だけ。
この用法ですが、ひょっとすると年配の方は違和感を感じられるかもしれません。
ただ、少なくとも30代の私には極めて自然に感じます。
どうして世代間差が生まれるのかも、興味深い研究対象だと思います。

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